23時49分

おたくのリハビリ

学校の小論文(題:インターネット・ガバナンスの推移と現状の分析)

ファイルのうpが面倒だったのでここで公開します.取り立てて面白い訳でもなく,無理に感想を求めたりもしませんので安心してください.

 

 

 

 

タイトル:インターネット・ガバナンスの推移と現状の分析

 

 

名前: A$AP MIKA$A

 

 

インターネット・ガバナンスとは,世界中を結びつけるインターネットにおける管理・統治・運営をめぐる問題である.serial experiments lainがその未来を「ワイヤード」という概念を用いて予測したように,インターネットは今や言うまでもなく世界にとって不可欠な公共財である.しかし,全てに責任や権限を持つ管理者や運営者は存在しない.技術面においては一面的に管理が必要な部分もあるが,全体としてみれば,政府,国際機関,民間企業,研究者・開発者,市民団体と言った多様な利害関係者(ステークホルダー)が意見を出し合って決定がなされる.このように多様な利害関係者がガバナンスに参加する進め方をマルチステークホルダー方式と呼ぶ.科学技術のグローバルガバナンスは,科学技術を使用する側とつくる側がともに関与せざるを得ないので,利害関係者が非常に多岐にわたる.インターネットの急速な発展とともに対応が求められる問題が増え,複雑化し,ステークホルダーの意見も多様化してきた.それゆえ,インターネット・ガバナンスはブラックボックスのように感じられるかもしれない.そこでまず,以下で主なイシュー別にその実態を概観してみる.

 

インターネット・ガバナンスの課題として初めに浮上したのは,インターネットを機能させるための技術的な諸問題であった.とはいえ,その専門家たちだけに委ねられたわけではなく,すぐに多様なアクターが多様な立場で関与し,国際的に問題化することとなった.インターネットとは個々の端末を結びつけるネットワークであるが,その巨大なネットワークにおいて情報の受け渡しが正確になされるよう,個々の端末に「住所」が割り当てられる.これをドメインネーム・システム(DNS)と呼び,数字を組み合わせたIPアドレスと英数字で記載されたドメインネームから成る.両者は一対一で対応させ,他の端末と重複がないように登録し,管理していく必要がある.それを誰が担当すべきか,これが一つ目の問題となる.

 

また,インターネットの急速な発展によって,IPアドレスが足りなくなるという懸念が出てきた.従来のIPv4という方式では約40億個までアドレスの割り当てをすることが可能だが,利用者の数が飛躍的に増えるなか,枯渇するのは時間の問題と考えられるようになった.特に,遅れてインターネット利用が始まった開発途上国から公正な配分を求める声が上がり始めた.その配分は誰がどのように行うべきかというのが二つ目の課題である.

 

インターネットが世に生み出されたばかりの頃は,このような問題が生じることはなかった.当初はコンピュータの台数そのものが限られていたし,アドレスを開発者たちが一元管理すればそれで済んでいた.しかし規模が大きくなると,分散した管理体制が考案され,結果としてDNSが生まれたのである.その仕組みは,トップレベル・ドメインとして企業(com),教育機関(edu),政府機関(gov),国際機関(int)などのカテゴリを設け,その下位に企業名や大学名などをつけ,最下位に個々の端末があるといった具合に,階層的に作成されている.そして,アドレスの割り当ては個々のネットワークの管理者に委ねられた.

 

このように分散された運営の体制は,インターネットの世界各地での発展に寄与した.ただし全体にかかわる問題もあり,それは上述したアドレスの登録と配分の問題である.それについてはICANN(アイキャン)を中心に,数多くのアクターがガバナンスの主導権を競う構図ができている.ICANNは1998年に設立された民間国際組織で,IPアドレスドメインネームを世界全体に割り当てるためのルールづくりや調整を主要義務としている.アメリカの開発者たちが行なっていた業務が,グローバルな組織であるICANNに移管されたかたちと言える.これについては,多様な利害関係者が参画し,誰もが参加できることが理念とされたものの,現実には意見対立が交錯している.

 

対立軸の1つは,先端技術の性質に起因する.インターネット技術はますます高度化・複雑化しており,イノベーションの大半は企業が牽引している.テクノロジーやビジネスの専門家に主導権を委ねてインターネットの「安定」を重視すべきか,それとも「ネティズン」の声も取り入れてインターネットにおける「公正」を優先すべきか,立場が二つに分かれている.

 

2つ目は,国際関係に起因する.IPアドレスの希少性が認識され始めると,途上国が配分の見直しを求めるようになり,先発国対後発国の構図が生まれた.また,アメリカのヘゲモニーを問題視する国々も少なくない.ICANNカリフォルニア州に本拠を置いていて,アメリカ政府の息がかかっていると批判されてきた.

 

最後は,国家の役割に起因するものだ.ロシアや中国をはじめとする一部の国家は,サイバー空間における国家主権を重視する立場をとり,ICANNのような民間の組織ではなく,政府間の国際機関に権限を持たせてリードしようとする.中国のGreat Firewallなどに象徴的で,しばしばデジタル権威主義という言葉で表現される.それに対し,政府の介入はインターネットの発展を阻害するという意見が産業界や市民社会には根強い.

 

ICANNはこのような対立を抱えながら,インターネット・ガバナンスにおいて大きな役割を担い続けている.例えば,アドレス不足解消のため,天文学的な数の割り当てを可能にするIPv6という新しい規格の普及に努めている.2016年にはアメリカの商務省と関わりをたち,アメリカの息がかかっていないことをアピールしようとした.しかし,以下で議論するような,他の深刻化する課題には別途策を講じる必要があるとされてきた.

 

デジタル・デバイドの問題は,インターネット・ガバナンスの抱える最も大きな課題の一つと言える.インターネットの利用は,1990年代に一般利用が本格化してから瞬く間に世界に広がった.しかし,世界各国一律に普及したというわけではなく,その格差が明らかになり,さらに広がっていることが問題視されるようになった.この格差の問題をデジタル・デバイドと呼ぶ.

 

2000年代に入るころには,デジタル・デバイドは“情報化時代におけるもう一つの南北問題”と強く認識されるようになった.インターネットの利用,特に高速・大容量のブローバンドの利用は専ら先進国に限られ,後発・開発途上国ではごくわずかな利用のまま推移していた.国家間だけでなく,国内でも居住地域や所得,学歴,年齢,ジェンダー,人種などによって格差は顕在化していた.

 

デジタル・デバイドは,インターネットを利用できるかという単なる利便性の問題にとどまらない.個人にとっては教育や就職の機会が広がるし,国や企業にとっては生産性の向上や雇用の創出,経済の発展が促進されうる.それゆえ,この問題は開発や教育などのアジェンダと絡めて議論されるようになる.2000年7月に九州・沖縄サミットで発表された「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」では,デジタル・デバイドへのグローバルな取り組みの呼びかけが行われた.同年9月には,国連ミレニアム・サミットに置いて「ミレニアム開発目標MDGs)」が採択され,2015年までに達成すべき目標の一つとして「民間セクターと協力し,新しい技術,特に情報通信技術の恩恵を行き渡らせる」ことが宣言された.また,こうした動きがあった中,国連はそれぞれ2003年と2005年に「世界情報社会サミット(WSIS)」を開催した.この開催は,インターネット・ガバナンスが技術的な問題としてだけではなく国際社会においても重要な課題であると認知されたことを意味する.

 

国連サミットでは,例えば環境問題でも開発の問題でも,政府以外の視点を入れたマルチステークホルダー型の議論が重視される.WSISにも首脳・大臣レベルの政府代表以外に,国際機関や産業界,市民社会,研究開発者コミュニティからの代表も参加した.第一回はジュネーヴで開かれ,望ましい情報社会のあり方に関する「基本宣言」とその実現に向けた「行動計画」を採択した.第二回はチュニジアで開かれ,行動計画の具体化について議論された.

 

デジタル・デバイドの問題の是正には多くの歳月をかけた取り組みが必要である.そのため,継続的に審議するため2006年に「インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)」が設置されている.各ステークホルダーの代表から成る「マルチステークホルダー・アドヴァイザリー・グループ(MAG)」が作られ,IGFの運営の中心を担っており,毎年一回総会が開かれている.

 

こうした国際社会の取り組みは制度化され,かつ継続的に行われてきたが,その成果については国連総会が2015年11月,WSISから10年後の現状を検討した.報告書は「いまだにかなりのデジタル・デバイドがある」とし,特に後発・開発途上国,社会的弱者などへの配慮が必要であるとした.そのすぐ前である9月に開かれた国連総会では,2030年までの「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され,人材育成をはじめとする情報通信技術のキャパシティ・ビルディング支援を強化することが盛り込まれた.デジタル・デバイドは,ジェンダー格差や教育格差,経済格差などの問題に広く繋がるものであるため,その是正はSDGsにとって不可欠と考えられている.しかし,ITUの最新の統計予想は,2018年終了時点で世界人口の約半数(48.8%)がインターネットを利用できずにいるだろうとしている.またアフリカ地域では,今もなお「オフライン」の人が多数を占めるとしており,まだまだ問題の解決に至っていないことは自明である.

 

サイバー空間の安全,いわゆるサイバー・セキュリティの問題も,インターネットの発展とともに浮上した課題である.インターネットが社会や生活に浸透すればするほど,それが正常に機能しなくなった時の被害は大きくなる.今やサイバー空間の安全は,仮想世界にとどまらず,現実世界の安全と不可分であるとすら言える.それゆえ,サイバー空間は陸,海,空,宇宙に続く「第五の戦場」と言われる.

 

しかし,サイバー空間では,そもそも何がその安全保障上の脅威であり,誰がどのように安全を守るべきなのかという点で.ガバナンスのにおける明確な国際的合意が存在しない.サイバー空間には様々な脅威が潜んでおり,時に顕在化する.それらはサイバー犯罪やサイバー攻撃サイバーテロ,サイバー戦争などの呼称がある.攻撃する側はハッカーのような個人であるかもしれないし,犯罪組織や軍事機関であるかもしれない.攻撃を受ける側も,一般利用者,企業,通信・電力などのインフラ,政府機関など,実に多岐にわたる.

 

何れにせよ特筆すべき点は,攻撃や犯罪の主体が誰であるのかが特定しにくく,また,その攻撃や犯罪は国境をいともたやすく超えて行われるということである.それがゆえに一国での対応には限界があり,多国間,あるいは非国家主体をも巻き込んで協力体制を敷く必要がある.グローバルガバナンスが最も必要とされる問題領域の一つであるということだが,そこには根深い溝が存在する.

 

その一つは,サイバー空間において「何を守るか」をめぐる対立である.サイバー空間の安全に関するガバナンス体制を最初に構築したのは,欧米の先進国手動で2004年に発効した「サイバー犯罪に関する条約(サイバー犯罪条約)」である.2001年に公開されてからすぐに30カ国が調印した.条約では,どのような行為をサイバー犯罪とみなすかを定義し,その取り締まりのために締約国が連携する方法などを定めた.

 

しかし,調印しない国も多くあった.特に,ロシアと中国は欧米主導の条約に参加意思を示さず,別のフォーラムで独自案をまとめた.上海協力機構(SCO)で検討を重ね,2011年に発表した「情報セキュリティのための国際行動規範」である.それにはサイバー犯罪条約と決定的に異なる点があった.すなわち,欧米諸国は情報の保護を重視し,サイバー空間で情報が盗まれたり改ざんされたりすることを犯罪とみなすこととした.一方,中露主導の行動規範は,体制を脅かすような情報の取り締まりを重視していた.条文を見ると,「テロリズム,分離主義,過激主義を扇動する,あるいは他国の政治,経済,社会の安定や精神的,文化的環境を弱体化させる情報の配布をそしするために協力すること」とある.さらに,行動規範は,国家主権の尊重を強調する内容だった.言論の自由を標榜する欧米諸国にとって,受け入れがたいものであることは自明である.

 

つまり,情報そのものを守るか,あるいは情報から体制を守るかという対立だが,後者が少数派であるとは必ずしも言い切れない.インターネットの利用はすでに後発国にも広がり,中には治安や体制の維持を最重要視する国も少なくない.イスラム諸国も,イスラム教の戒律に反する情報の取り締まりに意欲的である.一方で,サイバー犯罪条約の締約国は2018年現在で61カ国となっている.

 

中露は行動規範を作成したのち,議論を国連に持ち込んでおり,ゆくゆくは国連総会決議として採択されることを目指している.すでに政府専門家会合(GGE)は複数ラウンド開催されているが,上述したような対立軸は依然残されたままである.

 

二つ目は,国家と市民社会の間での対立で,サイバー空間における「安全と自由」をめぐる対立である.安全を名目に国家が統制を強めるとき,市民社会は自由とプライバシーの侵害を心配するだろう.同じことがサイバー空間においても言える.

 

先進国の多くでは,とりわけ9.11のテロ以降,情報機関がサイバー空間における監視活動を強化した.犯罪やテロを未然に防ぐために,情報機関がデジタル技術を駆使し,文字通り「全てを傍受する」ような時代が到来した.それは一方で,一般市民の個人情報や通信記録が,国家によって,気づかれないうちに大掛かりに収集されていることへの危惧を生む.2013年のスノーデン事件は,それがすでに現実であることを世に知らしめた.そうした市民社会の危惧をよそに,政府間だけでサイバー・セキュリティにおけるガバナンスの仕組みが作られようとしている動きに対し,サイバー空間の自由を尊重する立場から反発する声が大きくなっている.世界のジャーナリストによって構成されるNGO国境なき記者団」は,インターネットの検閲や監視を恒常的に行う「インターネットの敵」として世界中の国や機関を列挙するという活動を行なっているが,その中には中露を始め,アジアや中東,アフリカの独裁政権などと並び,NSAを抱えるアメリカと,同じくSISなどに有名であり監視活動が活発なイギリスも含まれている.安全と自由の対立軸は,今後もインターネット・ガバナンスにおけるジレンマとして存在し続けるだろう.

 

インターネットはますます便利になって,世界中で利用者数も用途の幅も拡大し続けている.その意味では,インターネット・ガバナンスは表面上うまくいっているように見えるし,そう言えるかもしれない.これほどまでに潤滑に世界をつなぎ合わせることが可能になるとは,開発者すら当初は予想できなかったであろう.しかしこれまでの議論にみたように,インターネット・ガバナンスの道のりは決して平坦なものではないし,今後も難航することが予想される.むすびに,その根底にある要因を整理することを試みる.

 

第一に,インターネット・ガバナンスは言うまでもなくグローバルな課題である.サイバー空間における国境は,完全に消滅したわけではないが,かつて世界が経験したことがないほどまでに希薄になっている.インターネットの問題は,ネットワークで結びついた世界全体の問題ということができる.全ての国々で合意形成していく必要があるが,それぞれの立場は決して一様ではない.

 

第二に,インターネット・ガバナンスには,様々なアクターが深く関わっている.一握りの開発者が管理・運営していた時代はもはや過去となり,世界数十億のユーザー,インターネットをビジネスに不可欠とする企業,法整備や犯罪捜査を担う政府機関など,多種多様なアクターが多種多様なフォーラムで討議している.当初からマルチステークホルダー型のガバナンスが施行され,それがうまくいった部分もあれば,相違が埋められずに残る部分もある.

 

第三に,国際政治の舞台におけるパワーシフトによって次々に課題が浮上する.一部の先進国から開発途上国へも利用が急速に広がったことによって,アドレス不足の懸念が生じ,格差(デジタル・デバイド)是正の要求が強まり,サイバー空間における安全と自由についても問い直されることとなった.一気にサイバー大国となり,デジタル権威主義を志向する先駆的な例でもある中国が,ロシアとともに欧米諸国とは異なる価値観をインターネット・ガバナンスに持ち込んだことの影響も大きい.

 

これらの点は,インターネットだけでなく,発展し続ける全ての科学技術に当てはまりうる.核関連技術,宇宙開発技術,バイオテクノロジー,ロボット技術,AIなど,人類の将来を左右しうる科学技術のガバナンスに,我々は今まで以上に注意深く目を向けていく必要がある.(7157字)

 

 

 

 

 

参考文献

 

須田祐子 2015 「サイバーセキュリティの国際政治—サイバー空間の安全をめぐる対立と強調」『国際政治』179号.

 

須田康司 2007 「サイバー犯罪条約の現状と課題」(原田泉・山内康英編著 2007 「ネット戦争—サイバー空間の国際秩序」NTT出版より).

 

会津泉 2007 「情報化時代のガバナンス-WSISにおけるインターネットガバナンスの動向,グローバルガバナンスの試金石」(原田泉・山内康英編著 2007 「ネット戦争—サイバー空間の国際秩序」NTT出版より)

 

会津泉 2004 「インターネットガバナンス-理念と現実」NTT出版

 

 

土屋大洋 2015 「サイバーセキュリティと国際政治」千倉書房.